梅雨が明け、猛烈な暑さが続くなか、熱中症で救急搬送される人が増加している。消防庁の下記のデータを見ても、昨年に比べ、その被害が広がっていることがわかる。赤の棒グラフが、今年の8月17~23日の期間に熱中症で救急搬送された人の数だが、ほとんどの都道府県が昨年同時期を上回っている。
東京23区では、8月に熱中症で死亡した人が、24日までに170人にも上っており、この数は統計が残る2007年以降、過去最多だという。また、静岡県の浜松市では、8月17日、国内の観測史上最高の41.4度に達したことが大きく報じられた。
連日、東北から九州にかけて、全国的に危険な暑さが広がり、できるだけ外出しないよう呼び掛けられているが、日中、会社に出勤したり、営業先を回るような仕事をしている人々にとっては、それは難しいだろう。
そうしたなかで、私が代表を務めるNPO法人POSSEには、テレワークに関する相談が増加している。しかし、私たちのもとに寄せられる相談では、会社がいろいろな理由を付け、テレワークを拒否している実態が浮かび上がってくる。
テレワークは猛暑にくわえ、新型コロナウイルスの感染拡大によってもニーズが高まっている。また、妊娠中の方や持病がある方、あるいは高齢者と同居しているなど、さまざまな事情から、自宅で仕事をしたいという要望が高まりつつある。
そこで、この記事では、これまでに寄せられた相談事例のなかから、テレワークを認めない会社側の言い分を見ながら、どうしたらテレワークを実現できるか、考えていきたい。
妊娠中でも認めない
新型コロナの感染が再び拡大するなか、三密状態や通勤時の感染リスクを避けるため、自宅で仕事をしたいという声は、日に日に増えている。なかでも、妊娠中の女性からの相談は切実だ。
ある出版社で働く20代の女性は、妊娠がわかり、コロナ対策として、会社にテレワークをさせてほしいと要望を出したが、断られてしまった。会社は「在宅でできる仕事はない」と主張しているが、当人の認識では、自宅でできる仕事だという。そのため、会社がテレワークを拒否する本当の理由は別にあり、それは「他の社員との公平性が保てない」ということだと考えている。
妊娠に限らず、さまざまな事情で感染リスクを避けたいと考える労働者は多いだろうが、その事情に配慮し、1人でもテレワークを認めてしまうと、他の理由で労働者がテレワークを求めてきた場合にも、許可しなければならなくなってしまう。実際に、こうした事情から会社がテレワークの導入に反対しているケースは多々見られる。
厚生労働省は、妊婦について「新型コロナウイルス感染症への感染のおそれに関する心理的ストレスが母体又は胎児の健康保持に影響がある」として、必要な措置を講じるよう事業主に呼び掛けている。その具体例として、出勤を制限したり(休業)、在宅勤務をさせることが挙げられている。
参考資料:「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について」
妊婦が新型コロナに感染した場合、重症化するとも言われており、感染を防ぐことはもちろんのこと、そのリスクを抱えながら出勤することが与える心理的ストレスについても、十分に配慮しなければならないはずだ。上記のような会社の対応は、非常に問題がある。
持病よりも「成績」重視
同様に、感染リスクがあるにもかかわらず、「会社の都合」を理由に、テレワークを認めてくれないという事例も見られる。
ある人材派遣会社で働く30代の男性は、持病があり、在宅勤務を希望している。だが、成績が上がっていないことを理由に、会社は認めてくれないという。さらに、このことを行政に相談したところ、会社から辞めるよう圧力をかけられるようになってしまった。
新型コロナに関しては、高齢者や基礎疾患がある人も重症化するリスクが高いことが報告されている。上記の男性も、このことを知っているからこそ、テレワークを望んでいるわけだが、会社は本人の成績を理由に拒否している。
「成績が低いのだから、テレワークなど言っていないでとにかく成績を上げろ」というわけだ。
このほかにも、「パートだから」、「派遣だから」と雇用形態を理由にテレワークを認めず、これを求めたところ、契約が切られてしまう事例も多発している。
参考:「政府の要請も「無視」 「派遣切り」を強行する人材派遣大手の実態とは」
このように会社がテレワークを認めないのは、先にも指摘したように、希望者全員にテレワークを認めていては、全体への示しがつかず、職場規律も緩んでしまう。だから、さまざまな、もっともらしいかのような理由をつけ、テレワークを拒否しているのである。
そうしたときに、「成績が悪い」ということや、非正規雇用者であるという「表向きの理由」が持ち出されるという構図にあるわけだ。とはいえ、こうした「理由」は正当なのだろうか?
テレワークを実現するために会社と闘おう
これまで見てきたように、妊娠中の女性や持病のある方など、重症化のリスクを抱える人のテレワークの実現は急務であるといってもよい。
さらに、新型コロナの感染リスクは雇用形態に全く関係がないにも関わらず、「非正規だから」という理由でテレワークが認められないのは、論理的に考えて「合理的」であるとはいえない。
こうした職場では、正社員にはテレワークが認められ、非正規だけ出社を強要されていることが多い。そのような雇用形態を理由とした差別的な扱いは、労働契約法に違反する可能性もある。また、「成績が悪いから」というのものも、社員の健康や安全性、ワークライフバランスを実現するためのテレワークを拒否する理由としては、妥当ではないだろう。
テレワークを実現するうえでは、あらかじめ就業規則に、「誰がその対象になるのか」、「どこで働くのか」、「どのように実施するのか」など、いくつかルールを定めておく必要がある。こうしたルール作りは、会社任せにするのではなく、労働者自身が関与し、どんな働き方を実現するのかをデザインすることが重要だ。
日本の労働組合法では、会社員は二人以上で社内に労働組合を結成したり、社内ではたった一人でも会社外の労組に加入する権利を持っている。これは、非正規も含めたすべての労働者の権利だ。そして、労働組合に加入すれば、会社とテレワークの導入や対象の拡大について直接交渉することが可能となる。
実際に、「同じ場所、また場合によっては同じ仕事をしているにもかかわらず、なぜ非正規であることを理由に、テレワークを拒否されなければならないのか」。こうした怒りを抱えた人たちが、私たちのもとに相談に訪れ、会社と交渉するに至っている。
参考:「テレワークを継続してほしい! コロナ「第二波」で広がる切実な訴え」
猛暑が続くなか、例年に比べても熱中症のリスクが高いことに加え、今年は新型コロナの感染を避けなければならないという新たな事情もある。どちらをも避けるための選択肢として、テレワークの実施をぜひ検討してほしい。
「会社からテレワークを拒否されてしまった」、「テレワークを実現するために必要なことを知りたい」という方は、下記のホットラインに相談していただきたい。
8月29日(土)13時~17時
電話番号:0120-987-215(通話料・相談料無料、秘密厳守)
無料労働相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
03-3288-0112
*「労働側」の専門的弁護士の団体です。
022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。
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August 29, 2020 at 08:20AM
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