
不倫関係に陥ったとき、かつては女性が「結婚してから本当に好きな人に出会い、恋をしてしまったんです」と言っていたものだが、今は違う。男性が「運命の人に出会ってしまった」と言うのである。 10年ほど前だろうか、40代から50代にかけての男性たちがやけに「恋をしたい」と言うようになっていると感じたことがある。その年齢の男性が「恋」という言葉を口にするんだと少し驚いたのだが、さまざまな職業、さまざまな環境の男性たちから同じような時期に聞いたので男たちが「恋」を語れる雰囲気が世の中に出てきたのかもしれない。
コウヘイさん(仮名=以下同・52歳)も、「運命の人に出会ってしまった」のだという。5年前のことだ。当時、19年連れ添った妻との間に大学に入ったばかりのひとり息子がいた。 「実はデキ婚だったんですよ。たった1回で妊娠し、彼女に迫られて結婚しました。僕は当時、まだ結婚するつもりはなかったけど、子どもができたと言われれば逃げるわけにはいかない。妻となった女性との関係も、交際していたといえるようなものではなかった。婚姻届を出すときに初めて、4歳年上だったと知りました」 それでも結婚してしまえば、夫婦としての日常が回ってしまうのだから興味深い。昔の見合いは顔さえ合わさず結婚したというのも頷ける。「生活のため」の結婚なら、それでもいいのかもしれない。 「いろいろありましたけど、子どもが生まれてから何とか夫婦の形も整っていきました。彼女は、自分で思っていた以上に仕事が好きだったようです。出産後はふたりで協力しながら家事育児をこなしました。僕のほうは、イマイチ出世街道から外れてしまいましたが、彼女は見事に出世していったようです。同期でいちばんの出世頭、ママでも出世できると彼女の会社では評判になったとか」 残業続きの妻に代わって、定時で帰って子どもと夕飯をとるのはコウヘイさんの役目となった。彼はそれも楽しかったという。 ところが人生は何が起こるかわからない。彼はある日突然、上司に呼ばれて会社の中枢である営業部への異動を言い渡された。45歳のときだ。同じ時期、妻は会社の派閥人事に巻き込まれて出世街道から外れる。 「のんびり働いていられればいいやと思っていた僕が、怒濤の仕事三昧生活になりました。妻はそんな僕に異常なまでの嫉妬をしていたようです。同じ会社でもないのに。自分の仕事のこともあるとは思うけど、彼女はいつも不機嫌だったから疲れて帰宅するのは気が重かった」 徐々に夫婦間に溝ができていく。それを埋める時間もないほどコウヘイさんは忙しかった。そして妻は埋める気などさらさらないように見えた。たまに早く帰宅しても、コウヘイさんの食事はない。早く帰ると連絡をしているのに、だ。せめて温かいご飯でもあればと呟いたら、翌日、電子レンジでチンするご飯がぽつんとテーブルの上に置かれていた。 4年がんばって、ようやく営業にも慣れてきたころ、コウヘイさんを助けてよく働いてくれたミカさんという女性が会社を辞めるかもしれないと言い出した。彼女に辞められたら仕事が回らなくなる。コウヘイさんは彼女を夕食に誘い出した。 「彼女は当時、40代半ば。既婚者で高校生の息子がひとりいましたが、夫の親の介護をしなければならない、と。仕事を辞めたくないと涙ぐんでいました。なんとか夫婦でよく話し合って、あなたが辞めなくてすむようにしてほしい、僕も会社もそれを望んでいるからと説得しました」
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