コロナウイルス感染問題がますますシビアになってきたこの季節、「不特定多数者との接触を避けられる」こともあり、バスや電車などの公共交通機関は避けて、クルマでの移動が増えている。
しかし一方で、狭い車内、後席にも乗員を乗せた状態では「密」は避けられない。ましてや3列シートのミニバンともなればなおさらだ。
ここで重要なのが車内換気。窓を開けて換気すればいいのだろうが、冬場の早朝や夜間だったら車内の温度が一気に下がってしまう。高速道路を走っている時は、窓を開けての換気は風の巻き込みが大きくなり、車内がうるさくなるし、バタバタする。
そんななか、車内換気について「みんな間違った認識をしている!!」と声を上げるのは超一流自動車エンジニアの水野和敏氏。水野氏は、「適切な方法をとれば、窓を開けることなく、効果的な車内換気ができる」と言う。
自動車開発エンジニアとして、クルマの構造を知り尽くした水野氏が実践している車内換気の「正しい方法」を伝授していただくことにしよう。
文/水野和敏
写真/ベストカー編集部
イラスト/小倉隆典
初出/ベストカー2021年1月26日号
【画像ギャラリー】車内換気の「正しい方法」を写真でおさらいしよう!!
■『内気循環』は基本使うべからず!!
こんにちは、水野和敏です。ベストカー読者の皆さん、クルマの空調システムについて、きちんとご理解している方は、どのくらいいらっしゃるでしょう。
最初にお伝えしておきたいのですが、『内気循環』モードは基本的には使わないでください。トンネル内渋滞などで、前方に臭い排煙の古いトラックなどがいる場合などに限り「限定的に使う」にとどめてください。
皆さん『内気循環』モードの時、エアコンユニットはどこから空気を取り入れているか知っていますか?
ほとんどのクルマは、前席足元、ヒーターの温風が吹き出るすぐ上に内気循環用の空気取り入れ口があるのです。
フロアマットにはさまざまな汚れや泥が付着していますし、靴にも歩道上の汚れが付着しています。例えば誰かが吐いた痰や犬の糞尿もあります。直接踏まなかったにせよ、路上には誰かの靴に付着したそれらが、目に見えない微細な粒子として存在し、それを自分の靴につけてしまっているのです。ウイルスや細菌やカビも付着しています。
しかも、冬場のこの時期、寒いのでヒーターを使います。足元から乾燥した暖かい風が吹き出して、フロアマットや靴に付着した微細な粒子を乾かし、浮遊させます。これを内気循環時のエアコンが吸い込み、熱交換器で増殖したり、ファンを使って車室内に拡散させたりしているのです。
したがって、原則として『外気導入』モードを使うことです。
■空気はどこから入ってどこから出る?
『外気導入』モードのエア取り入れ口は、一般的にはボンネットフード後端、フロントガラス下端のエアボックスと呼ばれる車体部分にあります。外気取り入れ口は、雨水などが入らないように配置され、エアコンユニットにフレッシュエアを送りこむ構造になっています(図1参照)。
空力性能に優れたクルマの場合、ボンネットフード上面からウィンドウシールドにかけて、ラム圧(走行風圧)を持つ風が外気導入口にスムーズにフレッシュエアを運びますが、空力が悪いクルマだとボンネットフード後端部で乱流(渦)が発生し負圧になるため、外気導入口にスムーズにフレッシュエアは運ばれません。フレッシュエアの取り入れが悪いと換気効率も落ちます。
■車内換気にも空力が関係する
一方、車室内空気の排出は、セダンの場合、リアウィンドウ後端、リアパーシェル部のガラスとの隙間からトランク内の内張り(トリム)の裏側を抜けて、リアバンパー横にある排気口(ドラフター)から車外に排出されます。ドラフターはゴム製シャッターのついた簡単な排気口です。
ここでも空力は大事で、リアバンパー横に整流を持つ“空力のいいクルマ”は、速い風の流れが作る負圧によって効率よく車室内の空気を吸い出してくれるのです。つまり、空力のいいクルマは、フレッシュエアの取り入れも、車室内空気の排出もよく、換気性能に優れるのです。エアコンなしのクルマも多い欧州では重要な性能です。
■空力がいいクルマは車内も快適に
ところで、リアウィンドウの内側は汚れが付着しますが、これは車内の空気の流れが理由です。走行中の空気の流れでガラスには静電気が発生します。また室内の空気はこのリアウィンドウ沿いを流れて排出されるので、車内の汚れ粒子がウィンドウ内側に付着するのです。
また、空力のいいクルマで外気導入モードとしていると、排出される車室内空気よりも取り入れるフレッシュエアが多く、車室内は1.1気圧程度に上昇します。
この場合車内の圧力は外部より高いので、少し窓を開けても冷たい外気は入らず、車内の空気が勢いよく排出されすばやく換気できます。
逆に内気循環モードの場合、外から入る空気がないのに、排気口から車内空気が排出されるので、車室内の気圧は下がります。この状態で窓を少しでも開けると冷たい外気が入り込み、換気もあまりされません。
■風向調整で換気能力は大きく変わる
皆さん、インパネのエアコン吹き出し口をどのような風向に設定していますか?
ヒーターを主に使うこの時期だとあまり意識しないかもしれませんが、夏場を思い出してください。
クーラーをつけて、その冷たい風を浴びたいため、すべての風向を自分に直接当たる方向に向けていませんか。
また、寒いこの時期でも、早朝など車室内が冷え切っている時、温風を自分に直接当てているのではないでしょうか。
一人での乗車ならそれでもいいですが、後席に人を乗せた場合はダメです。
フロントシートが壁になり、後席に風が行かず、後席左右の乗員スペースの空気が滞留し、換気が不充分になります。
つまり、インパネの吹き出し口から出た風は、前席乗員の身体に当たり分散されます。上方に流れた風はルーフに沿ってリアウィンドウに流れ車外に排出されます。前席シートの間を抜けた風はそのままリアウィンドウに流れていきます。
この場合、後席左右乗員が座っているエリアは風の流れがないため、澱んだ車室内の空気は滞留することになります。(図2)
ではどうするか?
インパネ左右の吹き出し口を、サイドウィンドウ側に向ければよいのです。
こうすることで、前席シートバックとサイドウィンドウの隙間に沿ってエアコンの風の流れが生まれ、中央のシートの間を流れる風とあわせて左右から後席乗員の顔から腰の周りまで空気を循環させます(図3)。すると後席乗員にフレッシュエアが供給され、車室内の換気が効果的に行えます。
実は後席に人がいなくても、この風向設定がお勧めです。
冬場の冷え切った車内や、夏場の暑くなった車内全体を素早く快適な温度にするためにも効果的なのです。
直接エアコン風をドライバーの身体に当てる風向だと、結局、先述のように後席部分の空気が循環しないため、車内にいつまでたっても暑い空気や寒い空気が残ります。
ところが、今説明した風向設定とすれば、車室内の空気が効果的に循環し、十秒ほどでエアコン調整された温度の空気に入れ替わります。もちろん、『外気導入』モードであることが大前提です。
このように、クルマの構造を知ることで上手なエアコンの使い方ができ、コロナ禍での車内換気も効果的に行うことができるのです。
さらに煙草臭など車内の異臭の除去も、換気性能のいいクルマと上手なエアコンの使い方で大きな差が出るのです。クルマはどれも同じではなく、買う時にも、エアコンにPM2.5フィルター付きなどを選ぶといいでしょう。
重要なことなので繰り返しますが、『内気循環』モードはあくまでも非常用で、常時『外気導入』モードでの使用を推奨します。
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