報酬設計で「社員にどう動いてほしいか」を明確にする
今回は営業部門の報酬設計(コンペンセーションプラン)について説明します。
外資系企業の事例を話すと「外資系はもともと給与水準が高く、日本企業とは事情が違う」「日本はチームで協力する文化。個人の業績で報酬を変える仕組みを導入しては個人プレーに走るようになってしまい機能しない」と言われることがあります。そのような意見は無視できませんが、給与水準をどう設定するかは、会社がどれだけ社員の給与に配分するかの意思決定次第です。外資系企業だけに存在する打ち出の小槌があるわけではありません。
また社員が個人プレーに走るかどうかは、金銭的な報酬だけが理由ではありません。『THE MODEL』でも参考書籍として紹介した『経営は実行』(著:ラリー・ボシディ、ラム・チャラン、翻訳:高遠裕子/日本経済新聞社)の一節をご紹介します。
「実行力のあるリーダーは、実行の体系(設計図)をつくる。素早く実行する社員を昇進させ、高い報酬を与えることによって、実行に必要な文化とプロセスを根づかせる。こうした体系にみずから関わるとは、仕事を割り当て、その後フォローアップすることだ。つまり、社員に優先順位を徹底することだが、その前提としてリーダーが事業全体を見通して理解しており、重要な質問をしなければならない」
ジョブ型へのシフトが叫ばれていますが、単にジョブデスクリプションを記述して職務内容を定義するだけでは機能しません。まず自社のビジネスの課題や現状に合わせて、どのような役割や組織が必要かを整理し、リソース配分を決める。次に各部門がそれに向けて活動しているか確認するための指標の設定を行う。それを評価や報酬に反映させることがセットでなければ機能しません。報酬設計とは、会社側が社員に戦略を伝えて「社員にどう動いてもらいたいか」を明確にする役割を持っているのです。
また報酬設計はその会社の価値観と密接に関係します。以前あるSaaS企業の社長から「まずは営業向けに業績給を導入したい」と相談を受けたことがあります。全社の数字が惜しくも未達だったときに、社長はそれを重く受け止めていたにも関わらず、ある営業と会話したらけろっとしていて、会社の業績目標をまったく意識していないように感じたことがきっかけのようでした。
その会社はそれまで個人の業績に関わらず全員固定給が払われる仕組みでした。しかし社員の中には「会社のために」と目標のために懸命に頑張る社員もいれば、「達成してもしなくても大差ない」と考える社員もいるのが現実です。報酬設計は「会社として頑張った人に報いるか、誰も取り残さず差をつけないやり方を取るか」という選択です。どちらが良い悪いではありませんが、方針をはっきりさせることで価値観を共にする人が集まることになるでしょう。
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