デビュー50周年を迎えた日本ロック史上最大のスター、矢沢永吉(72)が激動の人生を自らの語録で振り返る大型連載「YAZAWA’S MAXIM 矢沢の金言」(毎週火曜日掲載)。第7回は全米進出という新たな舞台で孤軍奮闘した時、思い返した反骨の言葉。ひとりで考え、ひとりで走ってきたからこそ、多くの出会いを吸収していく“人間・矢沢永吉”の大きな転機です。(構成・阿部 公輔)
よーし!アメリカだ。ひとりで渡米したのは1981年初め。日本で後楽園球場(現東京ドーム)をやった後は、目標を失って、苦しくて逃げたかった俺に「全米デビュー」という夢を提示してきたのがワーナー・パイオニア。そんな新たな扉を開けるというか、また目標ができた。
でも着いてすぐ目が覚めたよ。世界の名だたるミュージシャンがゴロゴロいてぶっ飛んだ。やっぱり日本とアメリカでは音もグルーヴも全然違う。誰も矢沢なんて知らないし、日本のスーパースター?だから何?で終わりよ。ブチのめされたね。本当!
技術的にも自分が信じてきたものがことごとくツブされた。でも、どんな世界的ミュージシャン相手でも絶対に対等に渡り合うんだ!という根性だけは常に持っていたかった。自分からセッション持ちかけてバンバン刺激を受けて、ビブラートやキーの上げ方とかいろんな発見があった。
大変だったのは英語。英会話学校にも通ったけど苦労したね。最初は通訳兼コーディネーターを雇った。でも、肝心のスタジオワークで自分が伝えたいことがちゃんと伝わらない。音楽はニュアンスが大事なのに、その肝心なところが全然相手に届かないんだよ。
だったら自分の表情や身ぶり手ぶりで、たまに辞書引きながら直接自分で伝えてみたら、何だよ!こっちの方がバッチリ届くじゃんって。そういう確かな肌感ってコミュニケーションには凄く大事で。そうなると会話にも自信が出てきて、大した英語力じゃないのにコミュニケーションだけは一気に上達。それからは通訳コーディネーターはなしで、直接やることにした。もっと彼らと近くなった。
「てめぇの人生なんだから。てめぇで走れ」。矢沢が昔から言ってる、この言葉は自己暗示でもあったんだ。
誰も知らないアメリカで、自分で飛び込んで、自分でやる。そうやって作った最初の全米デビューアルバム「YAZAWA」は全編英語の世界発売。移籍2作目「イッツ・ジャスト・ロックンロール」はシングルカットした「ロッキン・マイ・ハート」がビルボードの推薦曲にまでなった。でも、どっちも売れなかった。悔しいけど全然ダメだったね!
でもアメリカに行かずして本物のロックをつかめたか?って考えれば、単身乗り込んだこと自体は物凄く正しかった。そして何より、自分の人生で大切なドアを開けることができた。それは世界のレベルを肌で知ったこと。そして全部ひとりで動いたからこそ分かった音作りの仕組み、凄いミュージシャンたちと直接仕事のやり取りができるようになったことだ。気がついたら俺は歌手であるけど、矢沢永吉のプロモーターでありプロデューサーでもあったと思う。
渡米翌年の82年。日本で発売したアルバム「P.M.9」はドゥービー・ブラザーズやリトル・フィートのメンバーに加え、TOTOのスティーブ・ルカサーやジェフ・ポーカロが参加。この時のドゥービーの連中を引き連れて日本で凱旋ツアーを敢行した。
この時、どうせ矢沢自身が大金バラまいて呼んだんだろって噂がたったけど笑っちゃうよ。俺が一人で向こうに飛び込んで、世界のアイツら全員と直接やり合って「ヤザワが日本でやる時は一緒に行くぜ」って言ってくれた時のことを俺は忘れない。だからギャラもそれぞれと直接交渉し、飛行機のチケットの手配もワーキングビザの申請も全てやった。プロモーターもレコード会社もいない。俺が全部ひとりでやったんだ。だから当時の日本の業界はびっくりしたんだろうね。矢沢一人がまとめったってことを…。
結局、アメリカに渡っても苦労の連続だった。でも、その苦労のおかげで俺は向こうで知った全てを全部自分の手の中につかむことができた。今では世界的なミュージシャン、プロデューサー、エンジニアが「YAZAWAなら」って二つ返事でやってくれる。
あの時、日本を離れて本当によかった。出会った人たちから学んだことがこの手の中に詰まっている。大事なことは待ってても、誰もやってくれないよ。何歳になっても波は自分で起こすんだ――。
《豪華メンバー引き連れ82年に日本凱旋ツアー》矢沢が82年全国ツアーに引き連れたメンバーは「ドゥービー・ブラザーズ」の人気ドラマー、キース・ヌードセンをはじめ、ジョン・マクフィー(ギター)、ボビー・ラカインド(パーカッション)と同グループが中心。他に「エルトン・ジョン・バンド」のリッチー・ジィトー(ギター)ら含め計6人。
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