2020年6月に日本でのサービスを開始し、勢いが増すディズニープラス。ウォルト・ディズニー・ジャパン(東京・港)のエグゼクティブディレクター、オリジナルコンテンツ担当の成田岳氏に22年後半~23年の戦略を聞く。後編では、ディズニープラスの作品作りの根幹をひもといていく。
前回に引き続き、“ディズニーらしくない”意欲作『ガンニバル』から、ディズニープラスのオリジナル製作への姿勢と戦略を見ていく。
日本発のオリジナルコンテンツの責任者である成田氏によると、「日本のストーリーと欧米的なストーリーテリングは異なる」という。作品作りのスタート時には、「どんな主人公が何をしたのか」など、「教科書の1ページ目に書いてあるようなこと」を徹底的に話し合っていく。スタッフやキャスティングもストーリーを語るうえで、「どうやったらこの作品をよくできるか、どうやったら世界基準の作品になるか」という考えで選んでいるという。
一番良くないのは「どうでもいい作品に思われてしまうこと」
「『ガンニバル』のキャスティングでは、『今人気があるビッグネーム(の俳優さん)だから』というような、お名前を中心にメインキャストを組むことは極力避けました。話し合いの過程で今後フィーチャーしていきたいと思う方々の名前がたくさん出てきましたが、この作品に関しては『この人ならいい化学反応が生まれるんじゃないか』と思って声をかけさせていただいた形です。キャストはみなさん、実績がある方たちなので、『何でもやります』ということはないのですが、目線合わせ、目指している方向性みたいなものが合致できたのは大きかったですね。
一番よくないのは、どうでもいい作品に思われてしまうこと。『ガンニバル』は見てすごく嫌いという人もいると思うし、それはしょうがないと思う。しかし、『こういうストーリーでこういうことをやりたいんです』という点については、ブレずにみんなで共有して作っていこうという意識は強く持っています。それは(配信中の)『拾われた男』でも、他の作品でも同じです」
『ガンニバル』のコミックでは、大量の血しぶきが飛ぶような、目を背けたくなる残酷な描写もある。ディズニーブランドとは相いれないものにも思えるが、「クリエイティブに関しては現場に自由裁量がある」と成田氏は言う。
「作る側も後になってダメと言われるのは嫌だろうから、僕らも『どういったことをやりますか』というコミュニケーションは常にとりながらやっていますが、今のところやめてくださいと言ったことはないですね。
そうした過激な描写を見せることがストーリー上大事であるというのがロジックとしてあるならば、入れるべきだと思っています。
『ウォーキング・デッド』の残酷なシーンは、極限状態を表すうえで、1つの手段だと思います。逆にロジックがない残酷なシーンは、単にショッキングなだけで、それ以外に伝わるものがないでしょう。『こういうシーンで、こういうものを伝えたい』という思い、ロジックがある以上は、まずは表現に制約しないでいってみようかなと考えています」
このような「スタッフやキャストを先にそろえるパッケージから入るというやり方とは真逆」のストーリーテリングにこそ、20年間在籍したフジテレビでヒット作に多く携わった成田氏が、Netflixを経てウォルト・ディズニー・ジャパンに入社した理由でもある。
ディズニーは世界一のエンタテインメント・ビジネスの会社
「ビジネスとして視聴者に受ける要素を考えるのは当然だし、我々ももちろん考えます。一方、ディズニーは長い歴史を誇る世界トップクラスのコンテンツを擁する、エンタテインメント・ビジネスの会社です。語るべきストーリーをどのように見せていくのかというコアを、上から下まで全員が共有している。そこが最大の強みだと思っています。
これからみなさまにお届けする日本オリジナルコンテンツに関しては、『ディズニーなのにこんな作品を作るの?』ではなく『ディズニーだからこういうことができるんだ』と、むしろプラスに捉えていただけるようになればいいなと思っています」
長年、テレビ業界の第一線で活躍してきた成田氏は、欧米的なストーリーテリングのやり方について、「日本のテレビドラマも自然にできていたことだと思う」と話す。一方で、最近の韓国映像業界の快進撃についても「ストーリーテリングがベースにある」とし、現在の活況は「当然の帰結」だと考えているという。
「(韓国に関しては)どこにどういうふうにお金をかけて、映像産業というものに水をやり育ててきたかということが、最終的には『パラサイト 半地下の家族』になったり『イカゲーム』になったりと、結果として出ているのだと思います。その韓国が注力してやってきたことの1つとして、ハリウッドで、世界で通じるコンテンツのベースとは何かということを、きちんと勉強してローカルに適用したというのがあると思うんですね。
韓国が強い理由は、映画、舞台、テレビなど全部一緒だと思うのですが、どういうところにお客さんに見てもらえる要素があるのか、どうやれば見てもらえるのかといったことに関して、ある種のセオリーみたいなことを見つけ出し、素直に地道にやってきた結果だと思います」
それでは、日本の映像業界の今後にとって、どのようなことが必要だと成田氏は考えているのだろうか。
「結局のところ、成功体験を通じてしか次にはつながっていきません。言葉を選ばずに言えば、どこの日本オリジナル作品でもいいと思うんです。世界で成功すれば。それは新しい外資系のプラットフォームなのかもしれませんし、次世代のプレミアムコンテンツを作ろうとしている国内の企業なのかもしれない。でもどこかでそうした成功体験が生まれれば、それを通して、こういった良い作品を作れば人は見てくれる、世界の人々にも響くといったことをみんなが学べるし、夢を抱いてこの業界に入ってくる若者も増える。当然、ディズニーはそこをねらっていきたいと思っていますし、その作品が『ガンニバル』であってほしいとも思っています。
日本の映像の現場は、非常に長きにわたって、ものすごく多くの制約のなかで最大を目指そうという体制が続いてしまったので、動画配信サービスの普及によって『もうそういった制限がないんですよ』となっても、縮こまったままで進めていくことが、やはり多い印象です。そのなかで、『ここは伸ばしましょう』『伸ばしていいんですよ』ということを言えるのは、僕ら現場出身の人間がチームとして携わっていることの強みかなと思っています」
ディズニープラスは6月、さらに日本発の「スター」のオリジナルドラマを2作発表した。
『すべて忘れてしまうから』は、小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーとなったSNS時代の旗手・燃え殻のエッセーが原作で、世界各地の映画祭を受賞するなど期待の若手監督・岨手(そで)由貴子(映画『あの子は貴族』)、沖田修一監督(『子供はわかってあげない』『さかなのこ』)、そして『ガンニバル』の脚本も手掛ける大江崇允がタッグを組む。主演は阿部寛が務める。
『シコふんじゃった!』は、1992年公開で一大ブームとなった映画『シコふんじゃった。』の30年後を新たなドラマシリーズとして描く。総監督には映画の監督・脚本を務めた周防正行。葉山奨之と伊原六花のW主演が話題となっている。
『すべて忘れてしまうから』は22年9月に、『シコふんじゃった!』は22年秋、そして『ガンニバル』は22年冬に配信予定。オリジナル強化が続くディズニープラス。日本発の挑戦が、世界の視聴者にどのように受け入れられるか。
成田 岳(なりた・がく)
ウォルト・ディズニー・ジャパン エグゼクティブディレクター、オリジナルコンテンツ担当。フジテレビジョンで20年間にわたり演出ほか制作として活躍。Netflixなどでの勤務経験を経て、2019年にウォルト・ディズニー・ジャパンに入社
からの記事と詳細 ( 阿部寛に周防監督 ディズニープラスだからできる日本発作品とは - 日経クロストレンド )
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