前代未聞の、まわし待ったからの再開で横綱照ノ富士(30=伊勢ケ浜)が若元春(28=荒汐)の横綱初挑戦を退けた。

若元春の大善戦だった。左四つ、右上手を引き横綱の胸に頭を付ける、絶好の形となった。その後、胸を合わされたが、横綱の体勢を崩し右半身の体勢で横綱に食い付いた。2分を超える大相撲となり、若元春が勝負を決めようと前に出た瞬間だった。若元春のまわしが緩んだのを見て、立行司の式守伊之助が待ったをかけた。だが、それに若元春は気づかず前進。一方の照ノ富士は行司のまわし待ったの動きに、力を緩めるたのか、そのまま後退して土俵を割った。その直後、照ノ富士が式守伊之助を指さし、アピールするようなしぐさを見せた。

館内は騒然とし、正面審判長の佐渡ケ嶽審判部長(元関脇琴ノ若)ら審判が土俵へ。長い協議の結果、行司がまわし待ったをかけたため、その体勢から再開することが場内アナウンスされた。

ただ、どの体勢が最適か写真などで確認することはできず、ビデオ室からのアドバイスを受ける形で土俵中央からやや東寄りに両者が左四つで組んだ。足の位置など入念に確認した式守伊之助が、両者の肩付近をたたいて勝負再開。数秒の間を置いて若元春が寄り立てるところを、照ノ富士が左からの下手投げで振り、体を入れ替えそのまま下手投げで勝負を決めた。

報道陣のリモート取材に応じた日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は、取り直しでなく、水入りの時と同様に組んだ形からの再開に「そうだろうね。行司が待ったをかけたんだから」と審判部の判断を容認。若元春については「善戦でした。最高の相撲」と褒めつつ、前代未聞のハプニングも、その要因は若元春にあったとし「若元春のまわしが緩かったから。もっと初めから(取組前から)きっちり締めなくちゃ。残念だけど自分で勝機を逃してしまった。本当に残念。もっときっちり締めないと」と何度も繰り返し、照ノ富士については「時間を置いたことで冷静になれた」と推察していた。

◆まわし待った 力士のまわしが緩んだ時、行司が勝負を止めることができる。通常は静止した体勢のまま結び直すが、再び体勢を作り直すという事例は過去に例がないと思われる。勝負が長引いて決着が付かない「水入り」の場合は、1度土俵下に降りて、再開時は中断前の体勢から行う。

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