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Tuesday, September 20, 2022

暗闇の中だから見えるもの 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」が拓く多様性ある社会の未来 | 未来コトハジメ - Nikkei Business Publications

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約23年間にわたりロングランを続けている、暗闇を使ったエンタテインメント、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。視覚障害者であるアテンドと共に歩む暗闇は、他者に持ちがちな先入観に、自然と気付かせてくれる。ダイバーシティ&インクルージョンの先駆けとも言える本プログラムの姿を通じて、疫病や戦争など「分断」が目立つ時代における他者への配慮の必要性、またダイバーシティ&インクルージョンへの積極的な関与が切り開く未来社会の可能性を探る。

1999年11月に日本で初開催され、以来約23年間にわたりロングランを続けているエンターテインメントプログラムがある。

その名は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。最大の特徴は、暗闇の中で約90分間、グループとなった参加者同士でコミュニケーションを取りつつ、様々な体験を行うこと。照度ゼロの暗闇で参加者の行動を支援するのは、視覚障害者が務める「アテンド」だ。

筆者はある起業家に強く勧められ、このダイアログ・イン・ザ・ダークを体験した。初めての参加からかなりの時間が経過しているが、暗闇の中での体験は濃い記憶として残っている。

その理由は、おそらく視覚以外の4つの感覚が研ぎ澄まされ、それらの感覚で得た経験の一つひとつが味わい深い記憶に変化したからではないか。

「現代人は日常生活をかなり視覚に頼っているところがある。そのため、(五感がフルに使えているようでいて)実はバランスが取れていない状態のままで生活している」。このように話すのは、ダイアログ・イン・ザ・ダークの主宰団体である一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの代表理事を務める志村季世恵氏である。志村季世恵氏は同法人の理事でありダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン Founderである志村真介氏(季世恵氏の夫)と共に、ダイアログ・イン・ザ・ダークの運営に携わってきた。

筆者がダイアログ・イン・ザ・ダークの体験中、際立って印象的だったのが、視覚障害者であるアテンドの能力だった。詳しい説明はネタバレになるので避けるが、暗闇の中で自在に活動する姿に驚いた。アテンドは位置や方向を見失って迷っている筆者にスタスタと近づいてフォローしてくれた。筆者の位置をさも視覚で明確に判別しているかのようで、特殊能力者に出会ったかのようなショックを受けた。

もう一つアテンドの能力で驚いたのは、チームとなった参加者全員を、名前(体験中はニックネームで呼び合う)を含めてすぐに記憶できた様子だったことだ。筆者は、体験が始まった最初のうちは、どんな人が一緒に参加しているのか分からず戸惑った。筆者が後に志村季世恵氏による「視覚偏重」の話を聞いた後で自覚したことだが、暗闇に放り込まれたために、個々の参加者を視覚的に判別する手がかりを(文字通り)見失った格好だったようだ。

参加して印象的だったさらなるポイントは、参加者同士で独特の一体感が醸成されたことだった。暗闇の中でアテンドに案内されながら様々な行動を取る中、暗い中でコミュニケーションを取りながらお互いを判別しつつ、一種のチームビルディングがなされていく感触があった。志村真介氏はこれを「キャンプで共に過ごした仲間が、最終日のキャンプファイアーを見て語り合っているような信頼感」と表現する。

総じて、ダイアログ・イン・ザ・ダークが提供する体験は極めて特徴的だ。障がいのある・なしなどに関係なく、人それぞれが持っている個性や特性の面白さ、あるいは人同士が声を掛け合い助け合うことの楽しさについて、理屈抜きで気づかせてくれるものがある。

福祉分野の研修でもない、単なる個人向けのエンターテインメントでもない、独特なものが得られるプログラムだ。志村真介氏は「楽しみながら社会のことを感じられ、感じたことで行動が変わっていく。我々はダイアログ・イン・ザ・ダークのことを『ソーシャルエンターテイメント』と呼んでいる」と説明する。

産業界ではダイバーシティ&インクルージョンの重要性が盛んに叫ばれている。この概念を通じて、障がいや病気を持つ人も含めて、多様な人が尊重される組織づくり・社会づくりの重要性が認識されつつある。さらにここ数年の産業界では、SDGs(持続可能な開発目標)や「インパクト・エコノミー(社会インパクトを重視した経済活動)」など、新たな価値観を提示するキーワードに注目が集まりつつある。これらは総じて、経済活動の中で二の次になりがちだった生命の価値やコミュニティの価値を重視する概念である。

翻って、ダイアログ・イン・ザ・ダークはこれを20年以上も前から先取りして実践してきた格好である。同団体からは、近年の産業界や社会の動向はどう見えるのか。志村夫妻の話を聞きながら、ビジネスパーソンに今後より求められるであろうダイバーシティ&インクルージョンへの向き合い方を探っていく。

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの代表理事・志村季世恵氏と、同団体の理事である志村真介氏(写真撮影:筆者)

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの代表理事・志村季世恵氏と、同団体の理事である志村真介氏(写真撮影:筆者)

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