「分かち合い」が難しい社会
昔はつらいことがあれば誰かに相談していた。でも、誰もが大変な毎日を送っていると知ってからは、それができなくなった。自分の荷物を背負うだけで精いっぱいの人々に、私の荷物まで押しつけるわけにはいかない。 喜びを分かち合えば倍になり、悲しみを分かち合えば半分になるというのは昔の話だ。競争がはびこる社会で喜びを分かち合えば嫉妬の対象となり、ただでさえ疲れる社会で悲しみを分かち合えば憂鬱が伝染する。 「自分の役割を果たそう」簡単な言葉だと思っていたが、実はこの世でいちばん難しいことだった。自分の役割を果たしながら生きていくということ。 おとなになれば、すごいことができると思っていた。“井戸“の中にいた頃は、危機といっても雨による増水しかなくて、沈まないようにあがいているだけでよかった。大変だったけれどつらくはない。なかなかうまくやれていると思っていたし、井戸の外に出れば何だってできそうな気がした。 でも、いざ世間に出てみると、生きていくだけで精いっぱいだった。もう私を守ってくれる井戸の壁はない。稼ぎがなければ狭い部屋すら借りられない世の中で、自分より強い者に食われないように気を引きしめていなければならなかった。 わずかな狂いが生じるだけで、餌食になってしまうから。自分の役割を果たすことの大変さは、体験してみなければわからない。だから私は、人に寄りかかれなくなった。私が大変なのと同じように、みんなも大変だとわかるから。 みんなも一日中、神経をとがらせてがんばっているのがわかるから、笑顔を見せる。お荷物になりたくなくて、当たり障りのない話ばかりする。他愛もないおしゃべりをする。本当に話したいことを、胸の奥にしまい込んだまま。
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