「長男は跡取りだから」。亡父の遺産の大部分を独身の長男に相続させ、自身の預貯金までも長男の口座へ移し替えてきた母親。しかし、長男は病気で急逝してしまいます。高齢の母親に代わり、二男は奔走しますが、いろいろと納得できないことも…。どうしたらいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
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母親から「跡継ぎ」指定された独身長男が急逝
今回の相談者は、会社員の小林さんです。数ヵ月前に亡くなった兄の相続問題でアドバイスがほしいと、筆者のもとに相談に見えました。 小林さんには、独身の会社員の兄がいました。兄は大学を卒業後、社会人になってからも実家で両親と同居しており、数年前に高齢の父親が亡くなって以降は、母親と2人暮らしをしていました。 父親の相続時、母親は自分の相続時の手間を軽減するため、長男である兄に自宅不動産を相続させました。すでに家庭を築いてマイホームを建てていた小林さんは、母親の考えに従い、数百万円の預貯金を受け取って相続は完了しました。 ところがある日、小林さんの兄は勤務先で倒れ、病院に搬送されました。検査の結果、深刻な病気に蝕まれていることが判明してそのまま入院しましたが、治療の甲斐もなく、わずか数週間で亡くなってしまったのです。 独身で配偶者も子どももいない兄の相続人は、母親ひとりです。親より先に子が亡くなるという状況は、家族全員想定外の出来事でした。さらに悪いことに、母親は、自分が亡くなったときに面倒がないよう、夫から相続した預貯金や、これまでの自分のパート代から貯めた預金を、わざわざ長男名義の口座に合計2000万円以上移していたのです。立地のいい都内の自宅と合計すると、長男名義の財産は約1億2000万円にもなりました。
自身の預貯金も、兄の口座に移し替えていた母親
兄の相続人は母親ですが、高齢の母親が相続手続きを行うのは大変なので、小林さんが代行を引き受けることにしました。 そこで、ごく最近相続を経験した知り合いにあれこれ相談したところ、気がかりな指摘を受けました。「亡くなった日現在の預金が兄の名義なら、たとえ母親が兄名義で預け替えしたとしても、兄の財産として申告しなければならないのでは?」というのです。そのため、慌てて相談先を探したとのことでした。 ●今回の「母親から振り替えた預金」は申告しなくてOKだと判断 筆者は詳しく話を聞き、もともとは母親の預金であり、会社員の兄が2000万円以上の預金をしていた事実がないことがはっきりしているのであれば、母親の預金として除外し、今回の兄の相続財産からははずすことができると判断しました。 要は、今回の相続では申告をしないが、先に起こる母親の相続時に財産として申告をするわけで、相続税を先送りするという考えです。 そのことを伝えると、小林さんは安心した表情を見せました。 ●母親の相続を見据え、不動産の登記はそのままに 自宅の土地建物の登記は、相続人に変更するのが一般的ですが、いま母親に変えてしまうと、また次の相続で変更が必要になります。それであれば、とりあえずは亡くなった兄の名義のままとして、費用をかけないことを提案しました。
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