「文藝春秋」2月号より演出家の宮本亞門氏による「神田沙也加『瞳のかがやき』」を全文公開します。(全2回の1回目/後編に続く)
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初めて会ったときのこと
初めて会ったとき、沙也加さんがあの大スターの娘さんだとは全く知りませんでした。
2004年に私が演出を務めたミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ(INTO THE WOODS)」のオーディション。
「よろしくお願いします!」
元気に挨拶をしながら部屋に入ってきた彼女は、いきいきとしていました。何より印象的だったのは彼女の瞳。本当にキラキラ輝いていた。それと同時に、こちらに食らいついてくるような、「このオーディションが、自分にとって最後のチャンスだ」と言わんばかりの気迫に満ち溢れていました。
オーディションでは偏見をもちたくないので、履歴書には事前に目を通さないようにしています。本人が部屋に入ってくる前に、名前をちらっと見るだけ。同席するプロデューサーにも「情報を入れないで」と断っているので、何も伝えてきません。
この時は、主役の一人である赤ずきん役を募集していたのですが、僕としては若い俳優に演じてほしかった。ただ「この役を演じられる役者はいるの?」と思うほど、歌も演技も非常に難しい役で、丸1日かけて丁寧にオーディションしました。ピアノが置いてある部屋に一人ずつ来てもらって、歌とセリフを披露してもらったのです。
「いくらでも伸びるな」と確信
彼女の歌は、とにかく素晴らしかった! 赤ずきんがオオカミに食われて胃袋の中をずっと通っていく、その心情を表した不思議な歌です。オーディションの最中に少しだけ演出をつけたのですが、沙也加さんはジーッと聞いて、すぐに自分の歌に取り込んでいった。短い時間で、彼女がどんどん変わっていくのを感じました。さらに、赤ずきんの物語を自分なりにイメージする想像力と、豊かな感受性も持っていました。
正直言えば、声はやや震えていたし、発声も弱かった。だけど、「良い声」だと感じたのです。どこまでも伸びていくような、明確に通る声を持っていた。「ちゃんとした練習さえ積めば、いくらでも伸びるな」と確信しました。
「この子はすごいよ!」
沙也加さんが部屋を出た後、そう口にしたことをよく覚えています。
からの記事と詳細 ( 神田沙也加さんは「両親が有名人だから選んでくれたんじゃないですか?」と疑い…宮本亞門が見た“聖子と決別の意志” - 文春オンライン )
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