「グッチ(GUCCI)」は5月16日、2023年のクルーズ(プレ・スプリング)に相当する「コスモゴニエ(日本語で『宇宙進化論』の意味)」コレクションを南イタリアで発表した。招かれたゲストは、世界からおよそ400人。コロナ禍以降、「グッチ」は「見せたい時に、見せたいものを、見せたいように見せる」方向性にシフトしていたが、以降はコレクション・スケジュールに則った発表にシフトしていくようだ。
満月の夜に開かれたコレクションで、クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が描こうとしたのは、星座だ。ショー前の記者会見でミケーレは星座について、「まったく違う星たちを、見えない関係性で繋げている」と語り、「ファッションでも、同じようなことができるのでは?」と続ける。念頭にあるのは、ロシアによるウクライナへの侵攻。だからこそ今シーズンは「Glorify(『讃える』『讃美する』の意味)」という言葉を何度も使い、「こんな時代だからこそ、人々を『Glorify』したい」と意気込みを語った。
そして夜、要塞としてではなく、社交の場として13世紀に築かれたという古城を舞台に開いたファッションショーでは、中世と現代、ストリートとハイエンドなどを、「見えない関係性」ではなく、星々のような煌めきで結びつけた。
「コスモゴニエ」コレクションのキー素材は、ベロアやベルベットだ。黒やミッドナイトブルー、ワインなどのクラシックカラーに染まった素材は、深い闇や空がどこまでも広がる様を描く。ドレスの特徴は、長いトレーンや、放射状などに広がるブラック&ホワイトの色の切り替え。これらも、どこまでも広がる宇宙空間や、エネルギーがほとばしったり吸収されたりというブラックホールを想起させる。そこには繊細な生地を折り畳んで作ったひだ襟のブラウスなど、貴族文化が入り混じる。切り返しを多用した後にメタル装飾を加えたGジャンは、甲冑のようだ。
マザー・オブ・パールやパール、スパンコール、ビーズなどの装飾もふんだんに盛り込んで、夜空に広がる星々の輝きを表現した。ロングパールのネックレスや、口元から耳までを頬にかけて彩るフェイスジュエリーなども、星々の輝きを連想させる。「Glorify」するための洋服は、いつも以上にラグジュアリーで、ほとんどクチュール級。そこに、今の状況からの好転を願うミケーレの強い意志が伺える。
人々を「讃える」ため、デザインにはボディポジティブな価値観が潜む。流れ星のような細長い布を胸の前で交差させることで肌を露出したり、ベビードールやビスチエ、Y2Kのデザインを取り入れたり、シアーな素材でメタルメッシュや装飾を覗かせたり。グラディエイター風のブーツにはカットアウトを施して、スネの一部を露わにする。バッグは、ワンハンドルのホーボータイプや、内側のコンパートメントで「グッチビューティ(GUCCI BEAUTY)」のコスメ収納できるスクエアバッグなど。既存のシェイプでは、色の異なるレザーを張り合わせた。無関係な星々を関連づける星座のように、異なる色を1つのバッグの中に閉じ込める。パッチワークのようなオプティカル・アートなアイデアは、フェイクファーのコートなど、プレタポルテにも豊富だ。
フィナーレでは、古城に星座をプロジェクションマッピングした。ラストルックは、その星座を刺しゅうで表現したトレーンドレスだ。13世紀の古城に、最新のプロジェクションマッピングという演出も、古きと新しきを結びつけている。真逆のものを結びつけ、融和させたミケーレの願いが、対立が続くロシアとウクライナに届くことを願う。
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