被写体のすごみに圧倒された時、頭がぼんやりとして、シャッターを押す指以外の感触が消え、心地よさが訪れる。めったにあることではないが、この快感を求めて写真を撮り続けているのかも、と感じる時がある。
7月、そんなシーンに出合えた。視覚障害がある選手らによるブラインドサッカーの女子日本代表・菊島宙(そら)選手(20)。クラブチームの埼玉T・Wingsで男子選手とプレーし、体格差のある相手と渡り合う数少ない女子選手だ。今年新設のトップリーグ「リーガi」の第2節(7月24日)では男子日本代表の主力が所属するチームと対戦して全2得点を挙げ、勝利に貢献した。
ボールを持つと猛然とピッチを駆け上がる豪快なドリブルが特徴で、その勢いのままシュートを放つ。アイマスクをしてプレーしているのに、まるで見えているかのような動き。驚きが興奮へと変わり、撮影中は、アドレナリンが放出されっぱなしだった。
空間を把握できる能力は、どこから来るのか。アスリートの脳を研究している情報通信研究機構の内藤栄一さんはこう解説する。「パラスポーツのトップアスリートはたとえ障害によって失った機能があっても、残された神経リソース(資源)を最大限に生かす機能が存在する。ブラインドサッカー選手の場合は『音』によって空間を認知しているのです」。内藤さんによると、そのような脳の潜在的適応力を「超適応」と呼ぶ。
視神経などに先天性の疾患がある菊島選手が本格的にサッカーを始めたのは小学2年からで、健常の選手とプレーしていた。周りの選手の声の方向にパスを出すのが自然だったという環境で培われた経験が、能力を進化させたのかもしれない。
1年前の東京パラリンピックで、初出場の男子代表は5位に入った。菊島選手の夢も「パラリンピックのピッチに立つこと」。現状、パラリンピックでのブラインドサッカーは男子種目しかない。ゆくゆくは女子も採用されると信じたい。車いすラグビーなどのように、男女混成になる可能性もあるはずだ。どんな状況であっても、菊島選手は道なき道を切り開いていくだろう。(写真家)
からの記事と詳細 ( 越智貴雄のパラスポーツ進化論:見えない、だから「聞く」 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/gt28nD0
No comments:
Post a Comment