シンプルな舞台装置で、俳優の身体性/ムーヴメントによって空間を変えていくことを目指す劇団アマヤドリ。結成20年目を迎えて取り上げる新作のテーマは「社会的引きこもり」です。1年以上ぶりとなる劇団本公演『生きてる風(ふう)』について、作・演出・主宰の広田淳一さんと、劇団員・俳優の一川幸恵さんに、新作について、アマヤドリについて、劇団のこれからについて伺いました。
僕も「引きこもり」になっていたかも。でも演劇があったから……
――― 次回作は“社会的引きこもり”がテーマだそうですね。
広田「この数年で『8050問題』が話題になり、凶悪事件に発展してしまった。僕はほぼ同世代なんです。氷河期直撃世代でもあるので、社会からドロップアウトして復帰できなかった人も多い世代なんじゃないでしょうか。他人事だとは思えず、希望がある話を描きたかったので、「大変だけど、頑張っていこうね」という物語を考えていたんです。でも学べば学ぶほど、どうやらそんなに簡単じゃないぞ、と気づきました」
――― 現実は厳しかった?
広田「ええ。僕も、一歩間違えば引きこもっていたなと思いましたね。学校では「いろんなことを考えよう」と言われてお金の話なんてほとんどしなかったけど、社会にでるといきなり「儲けてください」と求められるのは、つらいですよ。経済的な社会になじめなくて、「出世したい」「儲けたい」という欲求もない。それよりも演劇のことを考えている方がいい。だから僕は若い頃、バイトをしながら「自分は本当は演劇をやっていて、バイトはそのためのかりそめの姿なんだ」と自分を説得していなければ、モチベーションが保てなかった。僕は演劇がなかったら本当に引きこもっていたかもしれない」
一川「私は逆かも。「社会に出なきゃ」と思っちゃいます。お金がないのは堪えられない。でも経済活動の為だけに会う人と、深く関わりすぎず生きることはできるかな」
広田「一川さんは他人との距離の取り方がうまいのかもしれないね。きっと引きこもっている人って、なにかの競争に勝てなかったことだけが理由じゃない。家族の問題もあるだろうし、どうしてもお金の問題がからんでくるはずで、競争社会で上位にいたとしても勝つことの意味が感じられなくて引きこもるケースも多いんじゃないかな。むしろ、すごく能天気な性格だったら引きこもっていられないかも?」
一川「能天気ではないけど、無理ですよ。なにか事務作業をするにも家から出てファミレスに行きます。稽古場でみんなで腹筋している時とかもそうなんですけど「あいつはここまでだ! 私はどうする!?」みたいに、まわりに人がいた方が頑張れるんですよ」
広田「それはわかる。だから「引きこもる気持ちはわかる」という主観と、まわりの人が引きこもり問題にどう対処していくかの両方を、うまく書いていければなと思っています。本当に希望のない話は若い人がやるのが良くて、僕は建設的になるようななにかしらの答えを探していきたいです」
「話すこと」と「身体」の両方を大切にする舞台を
――― 脚本を書く時に、劇団員の意見を参考にしてつくっていくんですか?
一川「最初にディベート大会があるんですよ。「今回はこういうテーマだけど、あなたはどう思う?そういう時どうするの?」とみんなでワイワイ意見を言い合って、それが芝居のエピソードになることもあります。あと、広田さんから参考文献リストを渡されて、「これとこれとこれは読んでおいて」と言われます。公演のたびに本棚に本が増えていきますね」
広田「良い本は読んでもらって、みんなに理解してもらいたいんです。今回もすでに「社会的引きこもり」をテーマにした関連資料を何十冊も読んでいますが、その中でいくつかメンバーにも読んでほしいものがある。ただ、本ばかり読んでいると自分の考えが偏って歪んでしまうので、いろんな意見を聞きたくて劇団のみんなに「どう思う?」と話し合っていきますね」
――― 稽古での話し合い(ディベート)をかなり大切にしているんですね。
一川「広田さんの話はすごく長いんですよ(笑)。1シーン稽古して3時間話し合うこともザラなんです。「あなたは普段どういう人で、役とはどう違うの?」と日常生活的なことをたくさん聞かれますね」
広田「その人のベースになっていることを聞きますね。「なんの本が好きなの」「なんの映画が好きなの?」「なんのお芝居が好きなの?」と話しているうちに長くなってしまう。でも、そうしないとお互いに理解できないです。とくに日本の俳優は自己主張をしないから、話してもらえるようにいろいろ聞いていかないと。きっとアマヤドリに長くいる俳優はものすごく喋ると思うな」
一川「たしかに! 私は入団5年目ですけれどずいぶん主張するようになりました。「広田さんと戦わなきゃ負けちゃう」という感覚があります」
広田「せっかちなのでどんどん喋ってしまうんです……(笑)」
――― 一方で、アマヤドリは「身体」をとても重要視した作品ですよね?
広田「そうですね。やっててどう?」
一川「アマヤドリには「全員で動く」というメソッド(手法)があるのですが、簡単に言えばお互いを感じながら一緒に動く......という訓練なんです。お芝居でも、その場の相手を感じて行動することが求められる。ある意味他人とリンクするような感覚なんです。あと、首から上だけでセリフを言うのではなく、全身の体重がどこに乗っているのかを意識したり。やっぱり身体で表現 をしている人の方が見ていて面白い。劇団に4年いて、すこしずつわかってきた気がします」
結成20年目前!『アマヤドリ』という場所とこれから
――― 劇団ならではのやり方があるのは、長年の積み重ねですよね。
広田「劇団という特定の場所だからこそ、技術を蓄積する土台になると思うんです。でも、全然ダメですね。たとえば歴史あるイギリスの演劇にはとうてい敵いません。それでも、ゆっくりでいいから丁寧に積み重ねていくしかない。儲からないってわかってるけど続けたい。劇団は僕にとって、人と関わるほとんど唯一の方法ですし、ひとつの居場所としてすごくありがたい場所です」
一川「帰る場所、みたいな感覚はあります。もちろんアマヤドリ以外の舞台に立つことも面白いけれど、知らない人がたくさんいるなかで自分を主張するのはすごく難しいです。でもアマヤドリでなら、カッコ悪いところを見せても簡単には見捨てられないだろうな(笑)。自分を出せるし、一緒にいくつも舞台を経験しているから話が通じるのもありがたい場所です」
――― 劇団として、今後は海外公演も視野に入れているそうですね。
広田「来年以降に計画しています。海外でどこまで通じるかを知りたいし、素直に楽しみたい。どうなるかわからないからこそ、やってみるのも悪くないかなと」
一川「行ってみたら大打撃をくらう可能性もありますけどね(笑)。でも、どこで公演をしょうと、アマヤドリの作品が好きだからみんな劇団にいるんだと思います。それぞれ「この作品には出たいけど、今回のはいいや」という人もいれば、「アマヤドリにも出たいし◯◯劇場やテレビドラマにも出たい」という人もいます。みんな自由です」
広田「野放しにしているくらいがいいですよ。僕も若い頃は「メンバー全員でやる!」という思いもあったけれど、今は出たい公演に出たい人が出るし、作業があってもやれる人がやる。だからアマヤドリに関わっているけれど名前は出したくないという覆面劇団員みたいな人もいます。もう20年しぶとく続けてきたから、今後も続けていくことについての怖れはありません。主宰である僕が「場所を用意するよ」と腹をすえて、そこに「やるよ」と言ってくれる人達がいる以上、これからも続けていきます」
(取材・文&撮影:河野桃子)
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April 06, 2020 at 09:03AM
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