現代人はわざわざ用もないのに木の枝を折って断面を見たりはしませんが、かつては雑木の枝の髄を蝋燭の灯芯に使用していましたから、古代の人が木の使用目的により、その性質や特徴を把握していたとしても不自然ではありません。
先史時代には、たいまつや焚き火だった夜の灯火は、古墳時代から飛鳥時代ごろには、上流階級では結灯台(むすびとうだい)、または竹の灯火と呼ばれる、油皿に植物の髄を撚(よ)って浸した明かりへと変わりました。灯芯には主にイグサの髄が用いられましたが、木の枝の髄も灯芯として利用されました。髄を取ろうと枝を切ると中が空っぽ。「空ろでおじゃる」と宮廷人は思わずつぶやいたかもしれません。
「ウツギ」と名のつく木はこの木だけではなく、同じアジサイ科には、マルバウツギ(Deutzia scabra)、ヒメウツギ(Deutzia gracilis)、ノリウツギ(Hydrangea paniculata)、ガクウツギ(Hydrangea scandens)、コガクウツギ(Hydrangea luteovenosa)、バイカウツギ(Philadelphus coronarius)などがあります。
このうち、マルバウツギやヒメウツギ、ノリウツギはウツギと同様、髄が消失して中空構造ですが、花がガクアジサイによく似たガクウツギやコガクウツギは、ガクアジサイ同様に髄がよく発達していて、その髄は灯芯によく用いられ、「灯芯木」という名もあるほどで、ウツギの意味が「空木」ならば矛盾します。バイカウツギもみっしりと枝に髄がつまっています。
スイカズラ科にはツクバネウツギ(Abelia spathulata)やタニウツギ(Weigela hortensis)などがあり、ツクバネウツギ類は、枝が老化すると髄が消失する傾向もありますが、全体が中空にはなりません。タニウツギには髄がつまっています。
ミツバウツギ科のミツバウツギ(Staphylea bumalda)は、「ウツギと同様中空になる」と解説されますが、この木は筆者も切って確認してみたところ、髄がつまっていました。
髄があっても木の姿や花がウツギに似ているためにその名がついている、という説明も出来そうですが、それですとフジウツギ科のフジウツギ(Buddleja japonica)などは、花も姿もウツギに似ているとは到底言えませんし、また髄も中空ではないのです。このほかにもまだまだ「ウツギ」と名のつく木はあります。
これらの木本を、「髄が消失して中空である」あるいは「アジサイ科のウツギに花や姿が似ている」のどちらかでくくることは、不可能です。
ということは、そもそも「ウツギ」という名は、枝や幹の中が中空=空ろだからという理由でついた、とは言い得ないことになります。唯一、これらウツギ類のほとんど全てに共通点があるとしたら、それは「里山で田植え期前後に花が咲く木」ということのみなのです。
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