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Wednesday, February 16, 2022

「怒り」は幼い、だから利用する。わきまえず楽しむことで壁を越える【女子野球監督・橘田恵4】 - BUSINESS INSIDER JAPAN

kokselama.blogspot.com

「怒りは自分の感情に負ける『幼い』態度です。それよりも説明することが大事だなと思うようになりました。練習にメリハリは必要だし、声を荒らげることもありますが、感情に任せるのではなく『怒りを利用』する方がいい」

それは選手にも伝わっている。副主将の日野美羽(2年)はこう話した。

「監督は部員の空気がだれているなという時、意識してピリピリした空気を作っていると思います」

ただ、当時怒られ続けた1期生は、社会人になった今「一番よくグラウンドに来てくれる」という。グローブを投げて橘田に叱られた子は、2017年の全国大会でキャプテンとしてチームを率い、全国制覇に貢献。U18女子野球日本代表のキャプテンも務めた。さらに橘田が大学院で学んだ大学に進学し、同じように指導者への道を歩んでいる。

卒業生の進路はさまざまだ。女子プロ野球や社会人野球で活躍する選手もいれば、警察官になった子、今春、大学を卒業して働き始めた子もいる。彼女たちに卒業後もずっと「野球をやって良かった、楽しい経験だった」と思い続けてもらうことも、橘田の目標の一つだ。

「彼女たちに野球好きな子たちを育ててもらう、あるいは野球を離れてからも、周りの人へ野球の楽しさを伝えてもらうことが、本当の意味での『普及』ではないでしょうか」

と言いつつ最近久しぶりに、部員たちの発言と行動に「責任感がない」と叱り、グラウンドを出たという。しかし、グラウンドは校舎のある豊中市から車で30分以上かかる山の中。選手は監督がいようがいまいが、送迎バスの出る時間まで帰れない。監督の方も、本当に帰ってしまうわけにはいかない。

「結局近くのコンビニで時間を潰して、部員を乗せたバスが出た後、グラウンドに戻りました(笑)」と、さえない結末なのだった。

監督に左右されず、自分たちの色を出して

履正社のグラウンド

橘田が選手を呼べば、すぐに雑談に花が咲く。橘田だけが話すのではなく、選手たちも遠慮せずにどんどん話を盛り上げる。

撮影:MIKIKO

1、2年生で組まれた新チームは2021年11月、社会人と大学、高校のトップチームが対戦する「みやざきブーゲンビリアカップ」で優勝した。「少しずつできることが増えてきました」と橘田は笑顔になる。しかし部員たちを「橘田色」に染めようとは思わないという。

「1期生には1期生の色があったように、この代も、この代の色を出していければいい。私一人に左右されないチームになってほしい」

人にはあまり言わないが、部員がケガをすれば「防げなかっただろうか」「他にも練習法はあったのではないか」など、思い悩むという。ただ近年は、体の構造に関する解明が進み、合理的な身体の動かし方、ケガなく技術を高めるトレーニング方法もつぎつぎと開発されている。その分、指導者の選択肢も広がったと感じている。

「女子野球の知名度が高まるとともに、優秀な選手が他の競技に移らなくなり、選手の身体能力と競技レベルも急激に上がっています。今や10年前の日本代表の遠投記録と、うちの部員の記録が変わらないほど。私自身が指導する上でも、日々発見があります」

野球が好き。だからわきまえない

履正社高校女子野球部

撮影:MIKIKO

野球は1872年、アメリカから日本に伝来したとされ、日本では150年にも及ぶ長い歴史がある。膨大なプレー人口を支えるため、運営組織やルールも確立されてきた。一方で組織のしがらみや前例踏襲の姿勢が、女子への甲子園の道をつい最近まで閉ざしてきたとも言える。

また、わきまえ上手だった女子たちの多くが、自分自身に次のような言い訳をしながら、野球を諦めてきた。

「女の子だから」

「体が小さいから」

「下手だから」

野球というスポーツに限らず、多くの女性は進学、就職、結婚、出産などで、同じような岐路に立つ瞬間があるだろう。

橘田は、履正社の大半の選手よりも小柄だ。現役時代は不遇な時期も多かった。しかし多くの高い壁に直面しても、ある意味では「わきまえず」、野球を諦めなかった。それはなぜだろうか。

橘田恵_履正社高校女子野球部監督

撮影:MIKIKO

「やっぱり好きという気持ちですね。野球が好きという」

そして橘田は今、朝起きると選手時代以上に「ワクワクしている」という。「今日はどうやって選手を進化させていこうか」と。選手だけではない。

「自分もノックや指導で年々できることが増えて、ワクワクも強くなっているんです。うまくいかなくて悔しいことも多いけれど、悔しいと思える間は頑張って、指導を続けようと思います」

履正社高校女子野球部、選手たちが決めた2022年のスローガンは「できる!!!」。

橘田と部員たちはこれからも、できると信じて壁を越えていく。

(敬称略・完)

(第1回はこちら▼)

(文・有馬知子、写真・MIKIKO)


有馬知子:早稲田大学第一文学部卒業。1998年、一般社団法人共同通信社に入社。広島支局、経済部、特別報道室、生活報道部を経て2017年、フリーランスに。ひきこもり、児童虐待、性犯罪被害、働き方改革、SDGsなどを幅広く取材している。

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