人間の本来の姿は「幸せに向けて自発的に生きる」こと
吉野創氏:さっきからずっと言っていますが、そもそも自走式組織®とはどんなものなのか。上司道のみなさんはレベルの高い方たちばかりなので、はじめから本質の話をしたいと思います。
そもそも人間の本来の姿は、幸せに向けて自発的に生きることだと思っています。本来の姿に職場で近づけていくというのが基本的な考え方で、これが自走式組織作りの根底にある考え方です。つまり、お給料のために働かなくちゃいけないということじゃなくて、働くことで自分自身が目指している幸せにより近づいていく。我慢してではなく、働くこと自体も充実して楽しくて感動があるということです。
働くことでクオリティオブライフが上がっていくということが、大切な考え方です。もうちょっと具体的に話すと、(スライドの)真ん中に線がありますよね。線の上が自走式組織で、線から下は自走式じゃない組織ですね。
じゃあ、自走式組織とはどういう状態なのか。「自発的に自走する」と書いてあります。みなさんは自発的にお仕事をやった経験はありますか? 上司道のみなさんはやる気の高い方たちばかりでしょうから、こういう人たちばかりだと思いますが、自発的に仕事に取り組むと楽しいと思いますよ。
お客さんや職場の仲間との関わりも楽しいし、自分からも積極的にコミュニケーションを取ったら、良いアクションも返ってくる。そして話し合いも密にできて、知恵が出る。提供価値がプラスアルファで高まっていくと、仕事が楽しく充実して、さらにお客さまがよろこんでくださいますよね。
お客さんから「ありがとう」と感謝されたら、充実感や達成感がありますよ。プラス、お客さまは売上や利益で返してくださるので、売上が上がってくるわけですね。売上が上がってくると、会社としては利益を配分する制度がありますから、賞与がアップしたり、昇給したり、特別休暇をもらえたり。そういうことができていくと、ご家族もよろこぶと思います。
「お父さん、お母さんありがとう」となったら、さらにやる気になる。稲盛和夫さんは「物心両面の幸せ」とよくおっしゃいますよね。両方必要だと思います。それが実現できるとさらにやる気になって自発的に仕事に向かう。この状態が回っているのが自走式組織です。
上司に怒られない程度に働き、募りゆく「やらされ感」
一方で(スライドの)下は自走式組織じゃない組織ですね。ここを見てほしいんですが、「他発的に働かされ」とあります。信じられないかもしれませんが、やらされ感で仕事をやっている人はたくさんいるんですよね。要は、嫌々やっている。働かないとお給料もらえない……とは(実際には)言わないですが、そういう考え方でやっている。
だから「仕事は苦痛、最小限」と書いてあります。やってもやらなくてもそんなに月給変わんないしな、じゃあ(上司が)怒らない程度で、最小限でまあまあのレベルでいいよ。そうなると、クオリティが上がらないですよね。
そういうレベルで(仕事を)やったら、ライバルがどんどん抜いていくわけです。どうなるかというと、お客さんのところに営業が来て、そっちに切り替えられて大切な顧客を失う。それが続くと、だんだん売上が下がっていきます。
売上が下がっていくと、さすがにマネジャーさんや経営者さんも「おい、やばいぞ。売上がこのまま下がると赤字になっちゃうよ」と言わないといけなくなっちゃうんですよ。
となると、ますますやらされ感が募って「辞めようかな」となっちゃうわけです。この悪循環が回っているのが、自走式組織ではない組織ですね。つまり(自走式組織とは)働くことで幸せになる。社員さんたちがさらに顧客を幸せにして、社会をさらに幸せにする。そして、達成感を感じて自分自身が幸せになるという、この循環が回っている状態です。
今、こういう経営を目指す企業さんが増えてますよね。上司道のみなさんは、たぶんこういう考え方を理解されると思いますよ。現場の感覚としても増えてるんですね。
でも16年前に経営コンサルティングファームに入った時は、「経営の目的は利益だよ」と教わりました。「なんで経営の目的は利益なんですか?」「利益がなかったらお給料を払えないだろ。企業が倒産しちゃうだろ」「確かにそうだ」と思ってました。社長さんもそういう理解でしたよ。でも、今は変わってきてるんですよね。
「幸せに働く人は、そうじゃない人に比べて創造性が3倍高い」
それを教えてくれたのが、僕の師匠の1人でもあります、慶應義塾大学の前野隆司さんという教授です。みなさん、この帯を見てください。本屋さんで(前野氏の著書を)見かけた時に、「企業経営で一番大切なことは、儲けることですか? 働く人の幸せですか?」と書いてあったんです。僕は「働く人の幸せだ」と思ったんですね。
実際に前野さんに会いに行くことができて、お話ししたんですよね。「自走式組織という仕事をやってるんです」とお話をしたら、「良かったら慶應大学に学びに来ませんか? 」と言われて、学びに行くことができたんです。これは本当に幸運でしたね。
前野さんがやっている「現代幸福論」という講義。ここで前野先生から教わったことがいろいろあったんですが、一番印象に残っているのは幸福感とパフォーマンスの関係。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ハーバードビジネスレビューという、世界中の経営者さんやマネジメント職の人が読んでいる論文賞がありますね。これはそこにも掲載されていますが、「幸せに働く人は、そうじゃない人に比べて創造性が3倍高い。生産性は31パーセント高い。売上は約4割増し」という研究結果が出ています。
これを世界の経営者が知ってるわけですよ。それを高めるために、つまり働くことで幸せになるためのいろんな工夫・取り組みを世界はやってるということです。ここで学んでそれがわかったんですよ。
前野先生からは「トヨタ自動車の社長は『幸せを量産する』と社員に発信してる。清水建設の社長も『社員の幸せを第一に考える』と社内報で言ってるし、積水ハウスの社長さんも『住むほどに幸せになる家のプロジェクト』をやってるよ」と、いろいろなことを教わりました。
上場企業は、幸せを経営の目的として目指す方向に舵を切っているんだなと実感できましたよ。一方で中小企業はどうでしょうか。いろんな体験がみなさんにはあると思いますが、おそらくこれから増えていくと思います。
前野先生からしっかり慶應大学で学ばせていただいて、今はもう新基軸の経営の時代になってるんだなということがわかったんです。旧基軸というのは、経営の目的が会社の利益の最大化だということです。
アメとムチで部下を動かすのは、前近代的なマネジメント
新基軸では、社員やマルチステークホルダー、関係者の幸せの最大化(が経営の目的)。そこで働く社員さんの幸せの最大化だと思っています。これが経済のトレンドだということが、慶應大学で学んで改めて確認できました。
ということは、自走式組織で良かったんだということが確認できたんですね。社員の幸せを考えない経営は、基本的人権の侵害、ハラスメントと見なされる時代になる。確かにそうでしょう。今、パワハラもキーワードとしてたくさん扱われていますしね。
恐怖や飴と鞭で動かして、ノルマや利益を達成させるためだけに働かせる。こういう状態は前近代的な経営と言われています。こういう組織は、もう未来には存在し得なくなると言われています。
上場企業のみなさんはよくわかってると思います。でも、現場の中小企業やマネジメント職の人はどうでしょうか。経営者さんも管理職も人事担当者の方も、法人組織に関わるコンサルタントや我々のようなコンサルタントも、幸福経営学、新機軸の経営を学ぶことが大事ですよと提唱しています。
では、なぜ職場に人と組織の壁があるのか。会社の利益を目指してやっていくというのが(潮流が)変わってきてるのか。そういったことを考えていく中で、いろいろな考え方があっていいと思うんですが、根本的に持っておかないといけない視点はこれだと思ってるんです。
会社と社員、それぞれが別のものを目指しているから問題が起きるんじゃないかなと思ってるんですね。(スライドを指しながら)図に表すとこんな感じです。労使関係の会社か、同志関係の会社か。
労使関係の会社というのは、会社と社員さんのビジョン、目的、目指しているものが別です。会社は利益を目指していていますが、社員さんが目指しているのは会社の利益ですか? たぶん違いますよね。本音では、社員さんが目指しているのは自分とご家族の幸せではないでしょうか。
社員と経営層との目線の“ズレ”が、最悪な結果を招くことも
ということは、会社は会社の利益を目指していて、社員さんは自分と家族の利益を守る。目指しているものが別だから、相反する状態になっていくと、「給料上げろ。待遇改善しろ」という感じで、労使対決みたいな感じになっちゃうんですね。
同志関係になる方法は、会社と社員のビジョンが同じです。社員さんが目指しているもの、つまり「自分とご家族の幸せ」は、本質的に変わらないと思います。
じゃあどうするか。シンプルに考えると、会社も「社員さんとご家族の幸せ」を目指せばいいのです。ところが、会社の経営者さんが社員さんたちにどういうメッセージを送っているかというと、「うちの会社は売上100億円を目指すぞ」「利益は10パーセントを目指すぞ」「高収益企業を目指すぞ」という話をしています。
でも経営者さんは、利益を高めて社員さんの生活を守ろう、給料を守ろう、雇用を守ろうと思ってるんですよ。思ってるんだけど、業績が下がってくると、こう言わざるを得ない状態になってくるんですね。
こういうことを常に会議の中で発信していると、社員さんたちは「売上100億円って、今は50億円なのに2倍大変になるのか」という変な捉え方をしちゃって、「辞めちゃおうかな。大変なのは嫌だから、マイペースでやらせてもらいます。わかったふりして逃げちゃおう」とか、矢印がバラバラの状態になります。
「この売上利益を目指すぞ」「こんな会社を目指すぞ」という、矢印の力が削がれちゃうのがわかるでしょう。この状態を放置していると、最悪こういうふうになりかねないんですよ。掲げた目標未達成が何年か続くと、赤字になったりします。赤字が何年か続くと純資産が毀損し、債務超過になり、金融機関取引停止で倒産になるんですね。
本心ではない思いを発信しても、社員は見透かす
じゃあ、何をメッセージとして伝えるか。例えば「うちの会社は、働く社員のみんなが幸せになることを経営の目的にするぞ」「みんなで知恵を出して顧客を感動させる仕事をしよう。そして多くの感謝をもらって、働きがいを感じる職場にして達成感も感じよう。「いい仕事をして、仲間との信頼関係もマックスにしよう。そんな仕事を楽しんで、社会にも貢献していこう」。
売上と、お客さまからの「ありがとう」をいただけて、物心両面の幸せを実現できる会社になる。こういうメッセージを経営者さんやリーダーが発信していると、「そういう会社だったら私も目指したいです。ちょっとだけがんばります」となります。「ちょっとだけ」でもOKですよ、方向性が揃っていることが大事なんですね。
方向性がそろっていれば、同じ方向の矢印ですから、束になって強く太い矢印になって目標を達成できるんですね。ただ、こういう理想像のメッセージを発信している経営者さんやリーダーの方が、どんな気持ちで発信をしているのかが大事なんですよ。
その時に大事にしてほしいのが、ただビジョンや理念を発信をしていても、本心では思ってない状態では社員さんたちに伝わらないんですよね。言っていることとやっていることが別々になっちゃうから、そこに心がないんです。
なので、まず経営者さんやリーダーはここを考えていきましょう。社長自身の生きる目的やミッション、使命です。ビジョン、目指しているもの、自分の人生で目指しているもの、そこに対して紡ぎ出した言葉が企業理念だ、という関係になっていたら(社員にも思いが)伝わりますよね。
企業理念が借りてきた言葉のような状態になっていたら、たぶん伝わらないですね。ここはちゃんと軸がそろっているかが大事です。企業理念は作って終わりじゃなくて、それを体現しないと意味がないです。
過去の経験から生み出される、一人ひとりの「仕事観」
体現するためには何が必要なのかというと、提供価値ですね。「この価値でお客さまや社会をより良くしていこう」というものが明確に決まっていないと、バラバラになっちゃう。それを僕は「コンセプト」と呼んでいます。
何を、誰に、どのようにして、どんな価値をお届けするのか。これが決まっていたら、あとはそれをお届けする戦略を戦術に落とし込んで、戦力を組織化して展開をしていく。この縦の1本軸がズバッと通っていたら、こういう話をしても伝わります。これがブレていたら伝わりません。
これは僕の経験則ですが、現場で経営を一生懸命している経営者さんや、10年以上経営をされている方は、だいたいこの軸ができてますね。じゃあ問題はどこにあるのかというと、社員さんも(ご自身の理念を)見直さないといけないんですよ。
社員さんにも、同じように生きる目的、ミッション、ビジョン、志はあるはずなんです。でも企業でこういう話をすると、社員さんのほぼ全員が「いや、僕にはミッションとか志とかないです」とおっしゃるんです。要は、こういったことを考える物理的な時間やきっかけが職場には一切ないということです。
「志? ミッション? 何ですかそれ。僕は仕事を我慢してやってるんだから、なるべく楽に仕事できて、なるべく高い給料がもらえたらそれでいいです」という考え方の人も、実はたくさんいらっしゃるわけですね。
仕事についての考え方、仕事に挑む姿勢を「仕事観」と呼んでいます。「個人領域」と呼ばれているものから影響を受けて、(仕事観は)個人個人がバラバラの状態です。みなさんが現場でお仕事をしていて、仕事に挑む姿勢の温度差を感じたことはありませんか? おそらく、みんなあると思います。
仕事観は「今までどんな人と生きてきたのか・働いてきたのか」によって形成されるものだから、基本的にバラバラなんですよ。企業理念は「社会貢献しましょう」と言っているじゃないですか。ということは、「自分自身の志を考えたこともないです。え、ミッション? そんなの知りません」という状態だと、そもそも企業理念と重なり合うわけがないんですよ。
社員の納得感を高めるためにも「仕事観」の統一が重要
志というのはそんなに大層なものじゃなくて、仕事を通じた社会、世の中への役立ち方だと僕は伝えています。みなさんも、いつも仕事でそういったことをやってるはずなんですよ。でもそれをちゃんと認識してないと、仕事に関しての仕事観が個人でバラバラになっちゃうんですよね。
「自分の志はこれだ、つまり仕事を通じた社会への役立ち方がこれなんだ」とわかれば、ようやくいつも唱和してる企業理念の意味を理解して、共感、共鳴、納得が起きる。
そうなったら、言われなくても専門スキルや知識の習熟のために本を読んだり、勉強したりするじゃないですか。そうするとさらに組織に展開して、業務改善を勝手にやりますし、チームワークがどんどんよくなりますし、部署の垣根を越えた応援態勢を勝手につくりますし、コミュニケーションも良くなる。
「仕事観」がキーになるというのが、やってみてわかりました。仕事観というのは、その仕事をどう捉えてるかという考え方や姿勢です。一言で言うと、仕事に挑む姿勢が現れるものが仕事観だなと思ってますが、これにはやっぱり個人差があります。
じゃあ、会社が求めている仕事観とはどんな仕事観なんだろうか。それすらも伝えていなかったら、なかなかこの(スライドの)三角形は重なり合うことはない。目に見えないものですから。そうなると、行動変化も継続しない。継続しないと、業績改善や組織成長にも至らないんですね。この辺りはすごく大事なことなのでお話させてもらいました。
僕はこれをコンサルティングファームに入って学ばせていただいて、当時の社長から「コンサルタントを今から始める吉野君。君が本気で本物のコンサルタントを目指すんだったら、これを忘れるなよ」と、こんな言葉を教えてくれたんです。
「いいか、企業の改善というのは人の改善だからな。人の改善というのは、人の心の改善だぞ。それだけは絶対に忘れるなよ」と教わったんですよ。僕はこの話を聞いて「心の改善って、そんなの精神論でしょ。それで経営コンサルティングができるわけない」と正直思ったんですね。
勉強して、理論・理屈でスマートに何とかするのが経営コンサルタントだと思っていましたから、僕は脇目も振らずに経営理論を読み漁ったわけです。でも、違いました。現場に行ったら通用しない。10年間やってようやくわかった。(コンサルで最も大切なことは)心の改善です。
上司に希望を感じず、優秀な社員ほど会社を去る
とはいえ、心の改善と言ったって、ちょっと難しいじゃないですか。なので、自走式組織メソッドとして体系的にまとめることで、実践しやすくしようと思いました。指示なしで動くチーム、つまり自走式組織にしていくためにマネージャーの方が現場で実践できることって、実はたくさんあるんですよ。
「部下の働く目的を大切にしよう」と、ここに書かせてもらっています。今はどうでしょうか。現場で上司へのプレッシャーは高くなっていませんか? 僕がコンサルティングファーム支社長時代は、プレッシャーは想像を絶するものでしたね。本当に胃潰瘍になりかけました。それぐらい厳しいプレッシャーにさらされていると思うんです。
さらに今、コロナ禍で業績が厳しくなってる企業さんは増えていますよね。残念ですが、たぶんこれから企業倒産もどんどん増えていく可能性が高いです。そんな中で、いろんな方たちが現場で格闘されてる現状じゃないかと思います。
「働く目的」というのを、僕は支社長時代にあまり考えていませんでしたし、自分自身は管理型のマネジメントで部下を思うようにコントロールしようとしていました。要は飴と鞭を使って、「お給料上げるぞ、下げるぞ」と言っていた。言ってしまえば、恐怖心に訴えて人を動かそうというマネジメントをやっていたわけです。
でも、そういう状態では有能な社員ほど会社を去って行ったなと、今思うと感じています。その一番の理由は何なのかというと、働く目的を理解してくれない上司に希望を感じなかったこともその一因だと思います。
(そんな上司のいる会社に)価値を見いだせない、と。働く目的の違いも理解しようとしていない。つまり支社の業績をあげるために、自己保身のために部下を動かそうとしていたんだと思います。未熟だったなと思いますね。
やはり、働く目的は仕事観次第なんですよ。この人が仕事をどのようなものとして捉えているのか、何を実現したいのか。それを上司がしっかり理解して、働く目的を大切に応援できるようになると、社員は上司やチームの目的を理解をしようとしてくれます。
<続きは近日公開>
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