同じ新聞記者でも、担当によって仕事の中身はずいぶん違うものです。
私は3年以上、経済部で企業の経営戦略や事業再編などに関する記事を書いていましたが、昨年12月、社会部で裁判取材の担当になりました。
コロナ禍で多くの企業の記者会見はオンラインです。決算資料などはウェブサイトからいつでも入手できます。
法廷はそうはいきません。傍聴席ではパソコンの使用も録音も禁止。昔はメモも認められませんでした。今はペンとノートは持ち込めますが、やり取りを記録するのは自分の目と耳が頼りです。
平日はほぼ毎日、大阪地裁で注目する刑事、民事裁判をチェックします。傍聴が計5時間を超える日もあります。速くメモを取り続けるには、先輩記者に教えてもらった略語が欠かせません。
弁護士は「B」、検察官は「P」、裁判官は「J」……といった具合です。
「アナログすぎる」。そう感じた方もいるかもしれませんが、法廷にいるからこそ見えるものもあります。
こんな裁判員裁判がありました。被告は障害者施設職員の男性(43)。利用者の首を圧迫するなどの暴行を加え、死亡させたとする傷害致死罪で起訴されました。
2019年6月、大阪府警が職員を逮捕したことを報じる読売新聞の記事には「容疑を否認」とありました。
真相はどうなのか。今年1月以降、計10回の公判を傍聴すると、捜査への疑問が膨らんでいきました。
証人として出廷した被告の同僚は「評判がいい人」「トラブルは聞いたことがない」と口をそろえました。
死亡者の体にはあざがあり、のどの骨も折れていました。しかし、弁護側の鑑定で新事実が示されます。あざや骨折は暴行が原因ではなく、「心臓マッサージなどの蘇生行為で生じた可能性がある」という医師の証言でした。
捜査はずさん――。ペンを握る手に力が入りました。
3月に言い渡された判決は無罪。検察側は控訴を断念し、判決が確定しました。
日本の刑事裁判の有罪率は99・9%を超えますが、わずかでも
報道は通常、逮捕直後の段階では警察・検察への取材が中心になります。最初は警察・検察が情報の多くを握っているためです。一方で、法廷で時間をかけて明らかになる真相もあります。それを見届け、記事で伝える重要性を改めて痛感しました。
大阪市の青木恵子さん(58)は1995年、小6だった娘の死亡火災を巡り、違法な捜査で殺人犯にされました。2016年に再審無罪となりましたが、約20年間拘束されました。先日、私の取材にこう訴えました。
「普通に生きていても突然、冤罪に巻き込まれるかもしれない。二度と起こらないように検証してほしい」
膨大な時間をかける裁判取材で、記事にできるのはほんの一部です。しかし、その責任の重さを感じ、傍聴席から目をこらし続けます。
【今回の担当は】久米浩之(くめ・ひろゆき) 大学時代は法律の勉強に熱中。最近はフリーランスの労働組合や過労死訴訟なども取材テーマにする。
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