第67回 問題解決力の崩壊
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崩壊の顛末(てんまつ)
複数の製造部門から成る比較的規模の大きな工場がある。これをN工場と呼ぼう。このN工場は、歴史的な経緯から複数の製造部門が独立に動いていた。そのため、部門間の協業がうまく機能しないだけではなく、複数部門にまたがる業務を担う間接部門の業務効率を大きく阻害していた。
若手や中堅のメンバーが徐々に現場で実力をつけて発言力が大きくなってくると、部門間での協業を積極的に推進し、生産性の大きな工場に変革しようという機運が盛り上がってきた。ところが、ベテランの中には、他の製造部門のことを「向こうのレベルは低い」「あっちのやり方は間違っている」などと言い、敵対意識をむき出しにする人もいた。そのため、部門間での協業は話題にするだけでも物議を醸す状況だった。
若手や中堅のメンバーはこうしたベテランの言動を苦々しく思いながらも、表立って反抗するわけにもいかず、「どうして、もっと仕事を効率良く進めようと思わないのかな」と仲間内で愚痴をこぼしていた。
こうした悩みを抱える中、N工場は、顧客からの厳しい価格低減要請や原材料価格の高騰などを受けて、経営環境は日増しに厳しくなっていく。社長をはじめ経営陣は、現場の縦割り文化を何とか打破しなければ大きな生産性の改善は見込めないと、痛切に感じ始めた。
そこで社長は、若手や中堅のメンバーと意見交換を重ねて、改善プロジェクトの発足を決断した。若手や中堅のメンバーが中心となり、業務連携のまずさによるムダを徹底して潰し込むことが狙いだ。議論の過程では、例えば「重複業務の存在」などが問題視された。本来であれば1ステップで済む業務であるにもかかわらず、「過去の経緯」といった理由で、2ステップ、3ステップと同じような業務を繰り返していたのだ。
こうしたムダなプロセスや付加価値の低いプロセスが存在していることが明らかになり、改善プロジェクトメンバーは、どうすればよいかと日々真剣な討議を重ねて、取り組むべき改善案をまとめた。
ところが、この改善案を関係するそれぞれの製造部長に提言したところ、「この問題には難しい事情がある」、「部門間の調整は複雑で簡単ではない」などと強く難色を示された。しかし、改善プロジェクトのメンバーが、具体的に何が難しいのか、具体的にどこがどう複雑なのかを問い掛けても、曖昧な返事しか返ってこない。
しびれを切らした改善プロジェクトのリーダーは、「その複雑な問題の解決に挑戦するのが今回のプロジェクトです。あなたにはその意志がないのですか?」と製造部長たちを問い詰めた。ところが、話をはぐらかす一方で、揚げ句の果てには「君たちにはこの問題の複雑さが分からないんだ!」と不機嫌になる始末だ。
改善を阻む本当の「岩盤」は、製造部門のトップ層だったと気づき、改善プロジェクトのメンバーはすっかり意欲をなくした。結果、改善プロジェクトは頓挫してしまった。
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