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Saturday, July 30, 2022

「だから、私は山へ行く」#17 森 美穂子さん | ランドネ - FUNQ

kokselama.blogspot.com

アウトドアウエアの機能性とファッションアイテムとしての美しさを兼ね備えたアイテムを世に送り出すアウトドアブランド「and wander」。デザイナーの森美穂子さんに聞く、山のこと、ものづくりのこと。

「だから、私は山へ行く」
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思考から開放されて、自然のつながりを感じる
それが、山歩きの楽しさ

思考からの解放

photo by Dai Iizaka

「山に行く理由はたくさんあるけれど、ここ数年感じているのは〝思考〞から開放される心地よさです。都会では一日のはじまりに『今日はなにを着ようかな』、『だれと会うんだっけ』……といろいろなことを考えてしまう。でも、山にはそんな選択肢はありません。身の回りを整えて、右足と左足を順番に出して目的地に向かう。そのシンプルさが好きなんです」

まっすぐに前を見つめて話す森美穂子さん。「アンドワンダー」のデザイナーとして自然と向き合ってきた彼女の言葉には、淡々と山道を歩いていくようなしなやかさがある。

幼い頃は青森や北海道で育ち、山岳部出身の父に連れられて夏はキャンプ、冬はスキーへとでかけていた森さんにとって、自然は子どものころから身近にある存在だった。その後、高校時代を東京で過ごした森さんは、服を作るアトリエを経営していた祖母の影響などもあり、ファッションの世界を志すようになる。

服飾の専門学校を卒業したあと、「I SSEY MIYAKE」でデザイナーとしてのキャリアをスタート。「ハードだけどやりがいがあっておもしろかった」という時代を経て、フリーランスデザイナーとして活動するようになる。森さんが幼少期以来遠ざかっていたアウトドアを楽しむようになったのは、このころのことだ。

キャンプから山へ

▲八甲田の木々のなかを歩く森さん。最近は“山歩き”だけでなく“山遊び”を楽しむことも多いという

「前職の同僚で、アンドワンダーのパートナーの池内くんや仲間たちと、20代半ばのころからキャンプに行くようになったんです。自然のなかで過ごすのは新鮮で心地よく、アウトドアの道具にも興味を持ちました。無駄のない、削ぎ落とされたデザインは機能美の世界で、見た目がおなじようなカップが、アルミ、ステンレス、チタンと異なる素材で展開されていることにも驚きました。デザイナーとしてわずかな差異に価値を見出すマーケットもすごいな、と」

森さんの興味は、やがてキャンプから山へとシフトする。そのきっかけは、あるキャンプ場でのできごとだった。

「いつものキャンプ仲間と福島県の野営場を訪れたとき、少し時間ができたので近くのハイキングコースを歩くことにしたんです。そうしたら景色が一変。『たった15分歩いただけで、こんなに世界が変わるんだ!』と感動したんです」

▲森さんが描いたイラストマップ。「縦走するときは山の地図やイラスを書いて写真には残らない思い出を記録します!」

森さんが山歩きに魅了されたのは、28歳のころ。八ヶ岳、北岳、槍ヶ岳。さまざまな山を歩いたけれど、とくに思い入れが深いのが穂高岳だ。

「美穂子という名前の穂という字は、山好きの父が好きだった穂高岳から取られたもので、小さいころから何度も話を聞いていたんです。父は私がアンドワンダーをスタートする前に他界してしまったのですが、はじめて穂高岳を歩いたときはうれしかったですね。そこにはきっと昔から変わらない景色があって『父さんもこの風景のなかを歩いたのかな』って」

▲「そろそろ海外のトレイルに行きたい!」と話す森さん。写真は北ヨセミテを歩いたときのもの(Photo by Dai Iizaka)

アンドワンダーをきっかけに
山や自然の魅力を知ってくれたら本当にうれしいです

機能的に。情緒的に

2011年に誕生した「アンドワンダー」だが、森美穂子さんと池内啓太さんが当時から大切にするのは「自分たちの肌感覚を信じる」こと。

▲and wander 創業時のメンバーと槍ヶ岳から大キレットを超えて、北穂高岳、奥穂高岳を縦走

「アウトドア業界にはすでにすばらしいブランドがたくさんあって、機能的にはもちろん申し分ない。ファッションが好きな私たちがやるのだから、機能性だけでなく、着ている人がきれいにみえて、気持ちの上がるデザイン性も大事にしたいと思っています。機能的であることと、情緒的であること。両方を満たす着地点を探すのが、むずかしいけれど、おもしろいです」

森さんのお気に入りのアイテムのひとつが「ドライジャージーショートスリーブT」。コンパクトな肩周りとふんわりとしたお腹周りが特徴の速乾性のTシャツだ。

「このアイテムは最初のシーズンにデザインしたのですが、当時は女性用のベースレイヤーは身体のラインに沿ったタイトなものがほとんどでした。身体を優しく包むアンドワンダーらしいシルエットができたときは、『よしっ』と手応えを感じました」

ほかにも、モードな色彩や大胆なカッティング、リフレクターなどのディテールなど、ひと目で「アンドワンダー」とわかる魅力的なアイテムを生み出してきた森さん。創業から12年目を迎え、2022春夏にはキャンプギアも登場。店舗内のギャラリーの運営など「アンドワンダー」が手がける領域は着実に広がってきた。これらの活動を通じて森さんが表現したいものとは?

「やっぱりひとりでも多くの人に自然や山の魅力を知ってほしい。アンドワンダーがそのきっかけになりたい、と思っています。山にいると、自然のつながりに触れられます。喉を潤わす川の水が、どこからくるのかが見えますからね。日常でもそんなつながりを想像できれば、社会が少しよくなると信じているから」

森 美穂子さん

『and wander』デザイナー。2011 年に『and wander』を池内啓太さんと立ち上げる。夏は山登りと川遊び、冬はバックカントリースキーを楽しむ

「だから、私は山へ行く」
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